日本の南西諸島に生息するトゲネズミ2種(Tokudaia osimensisおよびTokudaia tokunoshimensis)はY染色体をもたず、雌雄ともにXO型という、極めて稀な性染色体構成をもつ。雌雄ともにX染色体が1本ずつしかないため、トゲネズミには遺伝子量補償の必要性がないと考えられるが、その真偽は明らかではない。本研究は、XO/XO型アマミトゲネズミにおいてX染色体の不活性化が生じているか否かを確認することを目的に以下の研究を行った。 ・degenerate-PCR法を用いて、トゲネズミゲノムDNAよりXist遺伝子の部分配列を単離した。マウスの配列と比較した結果、90%以上の相同性を確認した。 ・real-time PCR法により、トゲネズミゲノム中のXist遺伝子のコピー数を定量した結果、雌雄ともに、ハプロイドゲノムあたり1コピーであることが明らかとなった。 ・得られたXist遺伝子のゲノミッククローンをプローブとして、トゲネズミ染色体にFISHマッピングを行なった結果、X染色体長腕(Xqll)にマッピングされ、1本しかないX染色体上に1コピーが存在することが明らかとなった。 ・繊維芽細胞由来のmRNAに対してRT-PCRを行ない、Xist遺伝子の発現様式を確認したところ、微量のmPNAが雌雄ともに転写されていることがわかった。 以上の結果より、トゲネズミのXist遺伝子はX染色体上に存在し、塩基配列からも機能しうる遺伝子として保存されていると考えられたが、その発現量は微量であり不活性化を担うまでには至らず、トゲネズミにおいて、不活性化機構ははたらいていないと結論づけた。
|