本研究は、ホルモン情報伝達系に中心的役割を担う核内受容体を含む行動内分泌関連遺伝子について、[1]げっ歯類脳の発達・分化に伴う各種神経核のDNAメチル化情報解析、[2]遺伝子座位を共有する内在性非翻訳RNAの単離同定と組織学・生化学的解析、[3]非翻訳RNA導入によるDNAメチル化改変と表現系解析、の大別して3点よりなる。[1]について、昨年度までに同定したエストロジェン・アンドロジェン・プロジェステロン・グルココルチコイド受容体の脳領域特異的メチル化可変領域に加え、行動内分泌関連遺伝子として10遺伝子を解析した。そのうち、4つの神経分化に関わる遺伝子Map2、 Nef、 Tau、 Vimentinのプロモーター領域にメチル化可変領域があることを明らかにした。いずれの遺伝子もラット胎生12日では細胞種に関わらず低メチル化状況にあり、生後0日目までに徐々に高メチル化へと移行していた。しかし、エストロジェン・アンドロジェン・プロジェステロン受容体とは異なり、神経核間でのメチル化差は認められなかった。項目[2][3]について、新規に取得したメチル化可変領域にオーバーラップして発現するnoncoding RNA (ncRNA)を発見した。その発現は細胞種ごとに異なっており、Map2にはセンスncRNAが、NefとTauにはアンチセンスncRNAが、VimentinにはセンスncRNAとアンチセンスncRNA両方が発現していた。各ncRNAについて、神経細胞モデルであるPC12細胞あるいは繊維芽細胞株であるNRK細胞から、内在性に発現しない細胞株を選択し、一過性に強制発現させたところ、センスncRNAではDNAメチル化改変が起こらず、アンチセンスncRNAではDNA脱メチル化が配列特異的に引き起こされることが明らかとなった。
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