タンパク質リシンメチル化酵素は、ヒストンや転写因子などの核タンパク質のメチル化を介して遺伝子発現の調節や高次クロマチン構造の変換を行うことで、細胞増殖・分化や個体発生に関係する。多くの生物種で、タンパク質リシンメチル化酵素に保存されたドメイン(SETドメイン)を持つタンパク質遺伝子が数多く見いだされ、機能解析が精力的に行われている。しかし、これまでに基質が同定され、その役割が解明されたものは一部のメチル化酵素のみであり、今後の研究により、新たなメチル化酵素-基質の組み合わせと、そのメチル化制御が関わる生命現象の発見が期待される。塩基配列の解読が完了している分裂酵母ゲノムDNAからは少なくとも13種類のSETタンパク質遺伝子が見いだされる。我々は、その中でも核に局在す3つのSETタンパク質に注目し、生化学的・遺伝学的手法を用いてメチル化酵素活性の有無の検討と、その生理機能の解析を行った。始めに、精製したリコンビナント酵素がタンパク質メチル化活性を持つかどうか調べたところ、分裂酵母から酸抽出したタンパク質の中に、Set11またはSet13によりそれぞれ特異的にメチル化されるタンパク質があることがわかった。酸抽出タンパク質を2次元ゲル電気泳動により展開し、Set11によりメチル化されるタンパク質を質量分析により調べた結果、Rpl12であることが明らかになり、さらにリコンビナントSet11がリコンビナントRpl12をメチル化することもわかった。また、3つのSETタンパク質の生理機能を調べるために各遺伝子破壊株の表現型解析を行ったところ、特にSet3とSet13の遺伝子破壊株がシクロヘキシミドに対し高感受性を示すことがわかった。現在も基質タンパク質の精製と遺伝子破壊株の表現型解析を進めており、これらの結果を総合的に理解しタンパク質リシンメチル化酵素とその修飾の役割を明らかにしたい。
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