光環境に応じて葉の窒素含量を調節することは、植物個体の生産性を高める上で重要であると考えられている(Hirose & Werger 1987)。このため、森林樹木の樹冠内で窒素分配がどのように制御されているかを把握することは、樹木の生産性を制限する要因を理解する上で重要であると考えられる。本研究では福島県いわき市勿来の中ノ沢国有林に建てられた林冠調査用の観測タワーを用い、ブナとイヌブナの高木を対象として、樹冠内の個葉の光環境と個葉面積、個葉重、窒素含量の関係を調べた。まず樹冠内の葉群クラスター(ひとかたまりの枝、葉からなるユニット)間で比較したところ、明るい位置のクラスターについている葉ほど葉面積/葉重比が小さく、面積あたり窒素含量が大きい傾向が見られた。これはこれまでの様々な研究の結果と一致している。さらに本研究では、感光フィルム(オプトリーフ、大成化工)を用いることで個葉レベルの光環境を測定し、葉群クラスター内の個々の葉について葉面積/葉重比や面積あたり窒素含量を比較した。この結果、光環境と葉の葉面積/葉重比や面積あたり窒素含量の関係はクラスター内の葉においてはあいまいになり、クラスター間でみられた傾向とは異なっていた。このことは、高木の樹冠内では個々の葉レベルで光環境に応じて窒素含量が調節されているわけではなく、葉群クラスターレベルで窒素含量が調節されていることを示している。
|