温帯域のイシサンゴ類の中で、キクメイシ科サンゴの3属6種それぞれ5-1群体を高知と和歌山の2箇所で採集し、ミトコンドリア遺伝子と2種類の核遺伝子を用いて遺伝的系統関係を推定した。また、和歌山県白浜町周辺の上記のサンゴの生殖様式の調査を産卵時期である7-8月に行った。 これらの結果、非常に興味深いことが分かってきた。特に、これまでキクメイシ(Favia speciosa)の種内形態変異であると思われていた微細な形態の差異2型が生殖様式の違いと一致した。まず、これら2型間で産卵時期が30分異なっていた。この違いはそれぞれ10群体の調査で一定して見られた。 また、これら2型間の交配実験では、有意に受精率に違いが見られた。それぞれの型内の交配ではほぼ100%である一方、2型間では、0-50%程度であった。さらに、これらの遺伝子解析の結果は、2型間で一方方向に限り交雑がまれに起こっている、もしくは種分化の途中であることを示唆した。 白浜周辺のミドリイシ属サンゴ数種についても、同様に生殖様式の調査および遺伝子解析を行った。特に興味深かったのは、交雑の可否や、種内での受精率、さらには産卵時間等を詳しく調べることで、これまで経験でしか分かっていなかった詳しい基礎データを得ることができた。また、遺伝子解析の結果は、これまで熱帯域と同じ種と思われていた温帯種が、実は別種である可能性を示した。 これらの実験に加えて、水温・水深・照度の測定器を、和歌山県白浜周辺の岸近くと外洋付近のそれぞれのサンゴ群集に3mと10mの深さで設置した。現在も測定中であり、今年度の暖冬の影響が水温から明らかとなっている。
|