研究概要 |
水域の生態系を保全・管理するにあたって、植物プランクトンが大発生を起こし突発的に起こる不連続的な富栄養化(レジーム・シフト)は、生態系が悪化する前に予測を立てることが重要となる(Genkai-Kato,印刷中)。本研究は、湖沼生態系においてレジーム・シフトが起こる可能性を生態系の規模や形状、食物網の構造を考慮して理論的に予測を立てることを目的としている。 湖沼におけるレジーム・シフトにおいて、湖の沿岸域に生息する植物群落が重要な役割を果たしている。沿岸帯植物群落は、植物プランクトンの摂食者である動物プランクトンにとって、小魚からの捕食を回避する隠れ場を提供する。また同時に、小魚にとってもブラックバスなどの大型魚食魚からの捕食を回避する隠れ場として利用される。小魚が捕食回避のために沿岸帯植物内に集まっている場合、動物プランクトンにとって沿岸帯は危険な場所となり、トップ・ダウン的に富栄養化が緩衝されない可能性がある。そこで、このパズル的な問題を解決するために、食物網構造(植物プランクトン-動物プランクトン-小魚-魚食魚)と空間構造(沿岸帯と沖帯)を考慮に入れた個体群動態モデルにゲーム理論を組み込みんだ数理モデルの構築を試みた。モデル構築にあたっては、大小さまざまで富栄養化度合も多様な湖沼群を調査対象にもつデンマーク国立環境研究所を訪問して、実際の野外の系に応用できる汎用的な予測モデルとなった。その結果、植物プランクトンに対する沿岸帯植物を介した動物プランクトンのトップ・ダウン的な効果により、不連続的な富栄養化が起こりやすい湖沼の形態的特徴と食物網構造を理論的に明らかにした(Genkai-Kato,2007)。
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