本研究は、東アジアの多雨林の純一次生産量と群集動態の長期変動を明らかにすることを第一の目的としている。植物は光合成によって二酸化炭素を固定して有機物を生産している。この総生産量から呼吸による損失量を差し引いた量が純一次生産量であり、地上部については、森林の現存量(幹と大枝)の増加分+葉や小枝の生産量として定義される。森林の現存量の増加分は樹木サイズの継続測定によって既存の経験式を用いて推定できる。葉や小枝の生産量は、リター(落葉・落枝)量の測定によって推定できる。他方、群集動態とは、新規加入速度・死亡速度・平均幹直径成長速度などを指し、固定調査区内の樹木の継続調査にもとづき計算される。 これまで、リター量については、マレーシア・キナバル山では共同研究により10年間におよぶデータが蓄積され、鹿児島県・屋久島では申請者自身により8年間のデータが揃っている。リター量は年変動が大きく、平均値の推定と長期変動パターンの検出には長期間の調査が必要とされる。本年度は、屋久島で引き続きリタートラップ(落下してくるリターを捕捉する網)によるリター量のモニタリングをおこなった。4調査区に各10個のリタートラップが設置してある。リタートラップにたまった落葉・落枝は研究代表者がおおよそ月1回のペースで回収し、作業補助員が葉・繁殖器官・枝と樹皮・その他に分別して乾重を測定した。 固定調査区データにもとづき、キナバル山の山地林の構造と種組成を分析した成果を、日本熱帯生態学会誌Tropicsに発表した。また、屋久島の純一次生産量と群集動態について予備的に分析した結果を、図書の1章として紹介した。
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