研究概要 |
野ネズミの個体数は,しばしばブナ豊作の翌年に急激に増加する。今年度は,この現象を説明しうる次の4つの仮説を,冷温帯の森林で優占するアカネズミの場合で検証した。1)豊作年の越冬生残率が一上昇する:2)雌1個体あたりの年間の繁殖回数が豊作後に増加する;3)雌1成体あたりの一腹産仔数が豊作後に増加する;4)豊作翌年の春仔の生残率が例年に比べて高い。 ネズミ捕獲調査は,岩手県の奥羽山系にある試験地内に生け捕り式トラップを格子状に設置し,指切り法により標識したうえで,体重・繁殖状態など記録した。また,採取した組織片から定法によりDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカーによる多型解析を行った。幼体・成体の豊作年における越冬生残率及び秋期個体群に占める幼体の割合は,ブナ堅果の落下総エネルギー量と正の有意な相関を示した。春仔の生残率に前年のブナ豊凶との関連性は認められなかった。ブナ豊作の翌年は,出産を経験した雌の数が多く,雌1個体が年間に出産した仔の数も翌々年に比べて多い傾向があった。雌成体1個体あたりの春繁殖期の出産回数は,例年では1回であったのに対してブナ豊作翌年では2回出産した個体が比較的多かった。以上の結果は,仮説1)から3)を支持する。アカネズミでは,ブナ豊作後に越冬生残率が高くなることで翌年に繁殖可能な個体が例年より増加し,さらに翌年の雌1個体の出産回数および出産する仔の数が増加することが重要であると考えられた。
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