本年度は、形質転換が容易で、高等植物と同様な酸素発生型の光合成をおこなうシアノバクテリアSynechocystis 6803株から作製した種々の変異株を用いて以下の研究をおこなった。 1.Mnクラスター配位子の構造と機能についての解析 電子スピン共鳴や光誘起差FTIR差スペクトルなどの物理化学的手法を用いてMnクラスターおよびその周辺の構造を解析するためには、Mnクラスターを含む光化学系II(PSII)複合体を濃縮・精製する必要がある。そこでいずれの変異株にもPSIIの構成タンパク質のひとつであるCP47タンパク質C末端にPSIIを精製するためのヒスチジンのタグを変異導入した。このことで、高純度のPSII複合体をSynechocystis 6803の単離チラコイド膜から界面活性剤存在下でのNi-アフィニティーカラムにより一段階で精製することが可能になった。しかしながら、配位子候補のアミノ酸を改変した幾つかの変異株では、PSIIの精製過程でMnクラスターが不安定化し、PSIIより解離し酸素発生能を失ってしまうことがわかった。現在、Mnクラスターを保持したPSIIを単離するためのPSII精製法の改良をおこなっている。 2.光化学系IIに結合する脂質の酸素発生系における機能についての解析 光化学系IIに結合する脂質のひとつであるジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)の酸素発生反応における機能を解析した。Synechocystis 6803よりDGDG合成酵素をクローニングし破壊株を作製したところ、DGDGの蓄積がみられなくなった。DGDG合成欠損株はほぼ正常な酸素発生活性を示したが、野生株が失活しない40℃程度で熱処理すると、酸素発生活性が著しく低下することがわかった。このことはDGDGは酸素発生反応には必須ではないが、PSIIの安定化に寄与していることを示唆している。
|