研究概要 |
ミロシン細胞は,アブラナ科特有の異型細胞である.シロイヌナズナの葉では維管束周辺に点在することが知られていたが,ミロシン細胞が維管束の分岐に沿って分枝する,あるいは発達中の維管束の先端部分に分布する傾向を新たに見出した.維管束の分化には,植物ホルモンであるオーキシンの関与が報告されている.そこで本研究では,ミロシン細胞の分化と維管束ならびにオーキシンの関わりに着目した.野生型シロイヌナズナと,ミロシン細胞数が増加するatvam3変異体とを比較しながら解析を行い,下記に示す新規知見を得た. 1.ミロシン細胞と維管束の関わり 葉における維管束パターンを比較した結果,atvam3変異体では高次脈が顕著に減少し,野生型には形成されない2次脈の不連続点が観察された.このことから,atvam3変異体では,ミロシン細胞が葉全体にわたってネットワークを形成している一方で,維管束は未発達であることが明らかとなった. 2.ミロシン細胞とオーキシンの関わり オーキシン応答マーカーを導入したシロイヌナズナを用いて,葉におけるオーキシンの分布を比較した結果,atvam3変異体ではマーカーの発現が顕著に低下し,野生型で観察される維管束予定領域を示す網目状パターンがほとんど観察されなかった.オーキシン処理したatvam3変異体の葉では,野生型と同程度にマーカーが発現したことから,オーキシン応答性は正常であることが示された.一方,オーキシン輸送阻害剤を添加した培地で植物を生育したところ,ミロシン細胞の分布パターンは維管束パターンと同様に影響を受けた. 以上の結果から,ミロシン細胞の分化は,維管束ならびにオーキシンと密接に関わることが示唆された.また,atvam3変異体では,葉におけるオーキシン蓄積パターンが異常になることによってミロシン細胞の数と分布に異常が起こっている可能性が考えられた.
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