私たちの研究室では、木質バイオマスの質的および、量的な改変を目的として、植物の維管束、特に木質器官の分化制御機構について分子レベルで明らかにすることを試みている。私たちはこれまでに、シロイヌナズナ由来の培養細胞より、道管細胞へと分化誘導する実験系を確立し、網羅的な発現解析によりこの誘導過程において特徴的な発現パターンを示す遺伝子を多数同定することに成功した。これら単離された遺伝子の一つであるVND7(Vascular related NAC domain protein 7)は植物に特有な転写因子であるNACドメインタンパク質をコードしており、過剰発現体などの解析より、道管細胞への分化を決定するマスター遺伝子であることを明らかにした。また、VND7は様々な相互作用因子により、その機能が制御されていることが示唆されている。 そこで、私は酵母two-hybrid法により、VND7の相互作用因子の探索を行い、NACドメインタンパク質をコードするVNDIP2を同定した。このVNDIP2を過剰発現した形質転換体においては道管形成に異常が観察された。一過的に遺伝子を導入する実験系を用いて転写活性能を測定したところ、確かにVNDIP2は抑制的に機能することが示された。このことから、VNDIP2は道管分化を負に制御する因子であることが明らかとなった。 VND7の機能を考えるにあたり、転写を直接制御する遺伝子を明らかにすることは非常に重要である。そこで、VND7にグルココルチコイドレセプタードメインを連結したものを過剰発現させた形質転換体を作成し、Genechipを用いた発現解析を行った。その結果、転写因子や糖修飾、タンパク質分解等様々な機能を持つ遺伝子群がVND7により発現が正に制御されており、VND7は道管分化に関わる複数の制御経路を直接制御していることを見いだした。
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