交付申請書に記載した研究実施計画に沿って、(1)カタユウレイボヤの被嚢基質を構成するタンパク質分子の同定と(2)その遺伝子発現解析を行った。 (1)新たに導入した液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析機システムにより、被嚢基質を構成するタンパク質分子50を決定することに成功した。詳細なドメイン構造解析を行った結果、これらの分子は大まかに細胞外マトリックスを構成する糖タンパク質群と補体系免疫タンパク質群に二分された。前者の糖タンパク質には、脊椎動物の外皮組織を構成するフィブリリンやマトリリンが含まれる一方、既知のタンパク質に類似しない新規の糖タンパク質が多数含まれており、それぞれ、脊索動物の外皮組織に共通な分子と、被嚢というホヤの仲間に特異な外皮組織を特徴付ける分子の候補であると考えている。また、後者の免疫タンパク質群は、固着生活をおくるホヤの仲間が外界に接する場である被嚢において、免疫作用が営まれていることを裏付けるものと理解している。 (2)同定した分子のESTクローン全長配列を決定した後、ジゴキシゲニンで修飾したRNAプローブを作成し、in situハイブリダイゼーション法により、遺伝子発現解析を行った。被嚢を裏打ちする表皮細胞や、被嚢内に存在する自由移動性の細胞に発現シグナルが認められたが、被嚢そのものに非常に強いバックグラウンドが現れるため、結果の解釈が困難であった。そこで、バックグラウンドが現れない条件および現れたバックグラウンドを除去する条件を検討し、大幅に改善することに成功した. これらの成果は、従来不明であった被嚢の構造および被嚢に認められる免疫現象の分子的実体に関する初めてのデータであり、今後の研究発展の基盤になると考えている。
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