研究概要 |
昨年度までの研究から,ナミニクバエSarcophaga similis幼虫には,暗期の前半と後半に光周性をつかさどる光感受相が存在すること,そのうちの後半の感受相が光誘導相(φi)であること,暗期の前半での光感受には青色あるいは紫外光を受容する光受容分子が関与していること,暗期の後半には幅広い波長を感受する光受容分子が関与していることが推定された。 そこで本年度は1.光周期を感受する光受容器の推定 2.光受容分子の単離 3。光誘導相に光が当たる場合と当たらない場合で,特異的に発現が変化する遺伝子の単離を行った。 1.ハエ目昆虫の幼虫の光受容器官としてはBolwig's organ(BO)と脳が挙げられる。まず,BOに着目し,BOを切除した幼虫が光周期に反応するかどうかを検討した。しかしながら,このような処理を行つた幼虫は蛹へと変態するものの,休眠か否かを判定できる直前のステージですべて死亡することがわかった。よって,現在のところ光受容器の推定にまでは至っていない。BOを切除せずに,脳だけあるいはBOに光周期を与える実験を計画する必要がある。 2.昆虫の光受容分子としてはさまざまな波長を受容する複数のopsin,そして青色・紫外光を受容するcryptochromeが挙げられる。そこでナミニクバエから,これら分子のクローニングを試みた。Cryptochrome遺伝子の単離には成功したが,opsinに関してはlong-wave-sensitve ops inがクローニングされたのみで,赤色や緑を受容するようなopsinの単離には至っていない。最近他のニクバエのESTが公開されたので,この情報を元にさらにクローニングを行う必要がある。 3.光誘導相に光が当たった場合と当たらない場合で脳内でどのような遺伝子発現の変化が起こるかを明らかにするため,subtractive hybridizationを行った。その結果,光が当たらない場合に発現量が増大している遺伝子断片が9ケ,逆に発現量が減少している遺伝子が3ケ得られた。今後さらに,これらの特異性について検討する必要がある。
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