タキキニンは脊椎動物の脳神経系や消化管に存在する生理活性ペプチドで、C痛覚伝達を始めとする種々の神経伝達、炎症反応、腸管などの平滑筋収縮、血管拡張などの多彩な生理作用を発揮する。近年、タキキニンやその受容体が哺乳類の卵巣や子宮などの生殖器官にも存在することが明らかにされたが、タキキニンの生殖器官における生理機能は不明である。そこで、Ci-TKの卵巣に対する生理作用を解明して、哺乳類タキキニンの卵巣における生理機構モデルとして活用することを構想した。 まず、免疫染色によって卵巣内でのCi-TK-Rの発現分布を調べたところ、Ci-TK-Rは卵巣の卵黄形成期(Stage II)卵細胞のtest cellにおいて特異的に局在していることが明らかになった。次に、カタユウレイボヤの卵巣をCi-TKで処理し、発現が変動する遺伝子をDNAマイクロアレイにより検出したところ、15個の遺伝子がCi-TK処理により上昇する可能性が示された。さらに、これらの遺伝子の発現をリアルタイムPCRで検証した結果、最終的に10個の遺伝子の発現が上昇することを確定した。これらはプロテアーゼ遺伝子と糖鎖認識タンパク遺伝子に大別された。以上の結果から、タキキニンの卵巣にける作用の一つは、プロテアーゼや糖認識タンパクの遺伝子の発現を上昇させ、卵成熟や受精の制御に関与していることが推測される。今後は、Ci-TK投与によって発現上昇が確認されたプロテアーゼの活性が上昇するか、さらに、Stage II卵細胞にCi-TKを投与することにより、卵細胞成熟や受精への影響を調べて行く方針である。
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