タキキニンは脊椎動物の脳神経系や消化管に存在する生理活性ペプチドで、種々の生理作用を発揮するが、卵巣における生理機能は不明である。そこで、カタユウレイボヤ由来のタキキニン、Ci-TKの卵巣に対する生理作用を解明して、哺乳類タキキニンの卵巣における生理機構モデルとして活用することを構想した。昨年度までの取り組みにより、Ci-TKの受容体、Ci-TK-Rはカタユウレイボヤ卵巣の卵黄形成期(StageII)卵細胞のtest cellにおいて特異的に局在していること、および、卵巣をCi-TKで処理すると、カテプシンD、カルボキシペプチダーゼB1、キモトリプシンといったプロテアーゼの遺伝子が上昇することを見出している。これらの結果を基に、本年度は、(1)卵巣のCi-TK処理により、上記プロテアーゼの酵素活性も上昇すること、(2)卵黄形成期の卵細胞にCi-TKを投与すると、後卵黄形成期への成長を促進すること、(3)このCi-TKによる卵細胞の成長は、Ci-TK-Rのアンタゴニストや、上記プロテアーゼの阻害剤存在下で完全に抑制されることを明らかにした。以上の結果から、タキキニンの卵巣における生理機能は、早期卵細胞のプロテアーゼ遺伝子発現と酵素活性を上昇させ、成長を促進することであることを、全生物を通じて初めて明らかにした。タキキニンは次世代の鎮痛薬や抗肥満薬の標的とされていることから、本研究成果を哺乳類に適用することにより、これらの医薬品候補の卵巣における副作用の軽減の指標を提供し、また、新しい卵細胞成長促進剤の開発に貢献することが期待される。なお、本研究成果に関する論文が、内分泌学の代表的な学術誌、Endocrinologyへの掲載されることが平成20年5月に決定した。
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