有中心粒太陽虫の一種Raphidiophrys contractilisを用いて、他の真核生物グループとの系統関係を明らかにし、真核生物における有中心粒太陽虫の系統的位置を解明することを目的として、分子系統解析に用いる大規模データセットを作成するためにまずR. contractilisのcDNAライブラリをSMART法により作製した。そして得られたコロニーを基にプラスミド抽出を行い、約1500サンプルの片鎖シークエンス解析を行った。得られた配列のうち43個のリボソームタンパク質遺伝子が同定されたので、それと共に既知の他の真核生物グループの同遺伝子配列のデータセットを作成し、44種、4842アミノ酸サイトによるML解析を行った。その結果、主な真核生物グループの系統関係は支持されたが、解像度が低いために各スーパーグループでの系統関係や分岐順、及び有中心粒太陽虫の系統的位置の解明には至らなかった。今後はさらに多数のcDNAライブラリからの遺伝子配列決定を行い、より情報量の大きなデータセットを作成して解析することを検討している。これらR.contractilisの複数遺伝子を用いた分子系統解析に関する研究成果は、今年3月の日本藻類学会大会及び筑波大学における国際シンポジウムにて発表された。 また、R.contractilisのEFL(elongation factor lα-1ike)を用いて、真核生物全体に点在するこのEFL遺伝子との関係について解析を行った結果、R.contractilisはどの真核生物グループとも近縁性が見られなかった。またこのEFLの分布において、単系統性が支持されているHaptophytaとCryptomonadsは姉妹群とならず、それぞれのEFL遺伝子が水平転移によって獲得された可能性が示唆された。この結果は、国内の二つの学会大会にて発表された。
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