深海性化学合成生物群集に生息する軟体動物の分類学的研究を行った。主な調査海域は、相模湾初島沖、沖縄トラフ、明神海丘、小笠原周辺の熱水噴出域、北フィージー海盆、ラウ海盆である。研究の結果、国内の化学合成生物群集には少なくとも6種の新種が存在することが明らかになった。沖縄トラフの鳩間海丘と第四与那国海丘の水深1300-1500m付近からはPyropelta属の新種が発見され、殻と軟体部の構造を詳細に明らかにし、新種記載を行った。本新種は殻を形成する殻層の数が多いことが特徴である。本属にはさらに別の新種と思われる種が相模湾初島沖の水深1100m付近から採集されており、今後検討が必要である。明神海丘の1200m付近からは、Anatoma属の新種が発見された。本属は漸深海帯に広く分布するグループであるが、化学合成生物群集からの報告は例外的である。本新種は歯舌の形態が同属の他種より著しく異なっている点が特徴であり、記載論文は現在投稿中である。Provanna属にはさらに4新種が存在する。それらの種は全て殻の形質によって識別可能である。少なくとも1種は生殖器の構造に既知の種とは異なる形質がある。南太平洋域のAlviniconha属は、複数の海域に2種が存在することが明らかになった。それらは殻の形質では識別が困難であるが、鰓の鰓葉の形態が明らかに異なる。この形態の違いは鯉に含まれる共生細菌の存在様式と対応する形質であると考えられる。
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