研究概要 |
アナアオサ(Ulva pertusa)は日本沿岸各地の潮間帯上部に一般的に見られる大型の海産緑藻の1種である。本来はタイプ産地でもある日本をはじめとした東アジアにのみ分布していたと考えられるが,近年フランスやアメリカで確認され,越境移入である可能性が指摘されている。しかしながら,これまでその実態や分散過程などを明らかにした研究例は報告されていない。 本研究は,分子系統地理学的解析によりアナアオサの越境移入の頻度やその分散過程を明らかにすることを目的としている。平成18年度はこれまでに入手済みのサンプルに加え韓国や北米,南米からアオサ属類のサンプルを入手した。これらのサンプルからDNAを抽出し,核のITS領域と葉緑体のatpI遺伝子とatpH遺伝子の遺伝子間領域の塩基配列の決定を行った後,日本沿岸のサンプルのデータと比較することで越境移入の実態の解明を試みた。その結果,既に報告されているかあるいは我々が既にアナアオサの分布を確認していたフランス,アメリカ,オーストラリア,ニュージランドに加え,カナダとブラジルにもアナアオサが分布することが確かめられた。また,日本沿岸や韓国,ロシア南部(サハリン)などのアナアオサには15のハプロタイプが認められたのに対し,それ以外の地域のアナアオサにはいずれも日本沿岸で確認されている2つのハプロタイプしか認められなかった。この結果は,自生地と考えられる日本周辺以外の地域のアナアオサが,越境移入したことを強く示唆している。また,ハプロタイプの分布パターンから,ヨーロッパには少なくとも2度移入していること,そして北米や南米,オセアニアにはそれぞれ1度ずつ1次的あるいは2次的に移入していることが示唆された。
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