コハクカノコ科の貝類は、地下環境に適応したのち、地表の河川に進出した極めて特殊な分類群である可能性が高い。平成18年度には、この可塑的進化を可能にした要因を探るため、以下の項目を実施した。 1.バヌアツ共和国・目本国内において野外調査を実施、コハクカノコ科の採集を行った結果、地下水環境から新たに2未記載種を得ることができた。これらの種は、貝殻ならびに生殖器の形態で容易に既知種と区別できるが、他の地下水種と類似することから、これらと近縁である可能性が高い。 2.海底洞窟性のコハクカノコ科6種について形態的記載を行い、これらを4新属に分類した。さらに、既知種とあわせ各種の地理的分布をとりまとめ、原殻形態から初期発生様式の推定を行った。その結果、海底洞窟のコハクカノコ類は浮遊幼生期の長さにかかわらず広い分布をもち、何らかの方法で海洋島問を移動していることが明らかとなった。本成果をまとめた論文は国際学術雑誌Organism Diversity & Evolution誌に受理され、平成19年11月に掲載の予定となっている。 3.これまでコハクカノコと呼ばれていた貝類について、インド・西太平洋のほぼ全域から収集した約150個体について、ミトコンドリアのCOI遺伝子および核ITS領域の塩基配列を決定、集団間の遺伝的分化と幼生分散について検討した。その結果、本系統には多数の隠蔽種が含まれ、これらの種がしばしば同所的分布を示すことが明らかになった。各種においては、10000km以上離れた地域間でほぼ同一の塩基配列を持つ例が確認され、幼生期に極めて高い分散能力を持つことがわかった。本成果については平成19年度日本貝類学会大会において発表を行った。
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