コハクカノコ科の貝類は、地下環境に適応したのち、地表の河川に進出した極めて特殊な分類群である可能性が高い。平成20年度には、この可塑的進化を可能にした要因を探るため、以下の項目を実施した。 1. 南九州、南西諸島、伊豆諸島において野外調査を実施、コハクカノコ科貝類の採集を行った結果、河川環境から新たに1未記載種を得ることができた。同種は、貝殻ならびに生殖器の形態で容易に既知種と区別できる。また、海底洞窟性のコハクカノコ科6種について形態的記載・初期発生様式の推定を行い、Organism Diversity & Evolution誌にて公表した。さらに、本論文を契機としてオランダの研究者との共同研究を開始し、海底洞窟性の2新種について記載を進めている。 2. バヌアツ諸島に生息するコハクカノコ科について、18年度の採集成果を元に分類・生態・生活環をとりまとめ、パリ自然史博物館刊行の書籍The Natural History of Santoの分担著者として原稿を寄稿した。 3. コハクカノコ科貝類を含めたアマオブネ上目の複数の両側回遊性種について、インド・西太平洋のほぼ全域から収集した約500個体を用い、ミトコンドリアのCOI遺伝子および核ITs領域の塩基配列を決定、集団間の遺伝的分化と幼生分散について検討した。その結果、これらの種が幼生期に高い分散能を持ち、数千キロメートル離れた地域集団間で遺伝的交流を行っていることが判明した。さらに、アマオブネ上目貝類が他個体の背中に乗って河川遡上するヒッチハイク行動を行っているのを発見し、Biology Letters誌に論文を投稿・掲載予定である。これらは、コハクカノコ科貝類における環境間の特異な放散を可能とした要因であると考えられ、総括的な論文として準備中である。
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