本研究の開始に当たって平成18年度に筑波山頂御幸ヶ原の集団に設定した調査集団では、前年度までに個体識別した個体の繁殖動態(個体分布位置、性型、サイズ)を継続調査した。その結果、哺乳類等による地下球茎の捕食によって、方形区内の個体が著しく減少していたことから、昨年よりも方形区の面積を拡大して新たに31個体(雌12、雄19)を識別し、遺伝解析及び繁殖成功度の測定用試料とした。これらの繁殖個体については、採取した葉片からQIAGEN社製DNeasyPlantKitを用いてDNAの精製を行い、全ての抽出作業を完了した。しかし秋季に行った調査では、鳥類等の捕食によって個体識別した雌個体からは果実の採取が行えなかった。一方、昨年度に繁殖個体から採取した種子については、胚からのDNA抽出を完了した。 筑波山の集団では、本研究の実施期間内では、鳥類等の捕食から免れて果実すなわち種子の採取が行えたのは平成19年度のみであった。現在は、3年間にわたって個体追跡した全繁殖個体及び平成19年産種子からのDNA精製を終え、本研究において新たに開発したマイクロサテライト遺伝子座のPCR増幅作業を進めている段階である。今後順次、PCR増幅産物のマイクロサテライト多型解析を行い、筑波山集団における繁殖成功度を推定する予定である。 また、以前より追跡調査を行っている石川県金沢市および長野県安曇野市の集団においても、引き続いて個体群動態に関する野外調査を行った。さらに、以前採取を行った石川県金沢市集団の種子サンプルからもDNA精製、マイクロサテライト多型解析を進めており、今後、長野及び筑波山集団との繁殖成功度を集団間で比較し、テンナンショウ属植物の繁殖動態における集団間変異に就いて考察を行い、学術論文に纏める予定である。
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