研究概要 |
本来は陸生である昆虫類が淡水域に適応した例は見られるが、海洋環境に適応した例はほとんど見られない。しかし, 水生双翅目昆虫の中には, 淡水域から海水域にわたって生活しているグループがある。このような、淡水から海水までの生態学的に適応範囲が広い種類の成立過程を解明するため、本年度の調査は, 南アフリカとシンガポールの2地域で, 双翅目昆虫のアシナガバエについての徹底的な分布調査を行い, 多数の標本の収集を行った。その結果、南アフリカの固有属Cemocarusについて、既知の2種C. griseatus, C. stuckenbergiに加え、さらに大型の新種(体長約8mm)と、小型の新種(体長約1mm)を、採集することができた。また、汽水域からも新種1種を得ることが出来た。シンガポールでは、マングローブが生える汽水域から、シンガポール固有種Ngirhaphium murphiが得られた。本種は、いままでに14個体しか世界から発見されておらず、今回5個体得ることが出来た。この他にも新種の可能性のある種が得られた。採集した未記載種については、新種記載の準備をすすめている。外部形態観察では、雄前脚の第一ふ節の電子顕微鏡写真の撮影を行なった。DNA解析は、すべての調査地点でDNA解析用のアルコール標本を採集することができた。これらの採集された全ての種についてDNAの抽出を行い、ミトコンドリアのND5遺伝子の1075塩基対について分子系統解析を行っている段階である。
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