tRNAアンチコドン一文字目の塩基修飾は、コドンの適正な縮重を制御しており、正確なタンパク質合成にとって重要である。グルタミン酸、リジン、グルタミンをコードするtRNAのアンチコドン1文字目のウリジン(U34)は、全ての生物種において修飾を受け2-チオウリジンとなる。U34に導入される硫黄はシステインに由来しており、反応性に富む過硫化硫黄となって硫黄伝達タンパク質間を移動し、tRNA硫黄化修飾酵素(MnmA)に引き渡される。本研究では、MnmA-tRNA複合体の構造機能解析を行い、U34への硫黄転移反応メカニズムを解明した。 MnmAとtRNAとの複合体の結晶構造を決定した結果、酵素がtRNAのアンチコドン一文字目と二文字目のウラシルを水素結合によって厳密に認識することにより、他のtRNAから3つの基質tRNAのみを特異的に識別することを明らかにした。また、MnmAとtRNAをATP存在下で結晶化し、構造を決定した結果、U34の2位の酸素にアデニル基が付加した反応中間体をトラップしていることが明らかとなった。アデニル基の近傍には、システイン残基が存在しており、変異体解析の結果、そのシステイン残基が過硫化硫黄を受け取り、アデニル化反応中間体を求核攻撃することによって、tRNAに硫黄を導入するという新規な反応機構モデルを提唱した。本研究では、結晶系が異なる3つの複合体構造を決定した。比較解析の結果、反応部位近傍に位置する酵素の"可変領域"の構造が、酵素反応の進行に伴い劇的に変化することを示唆した。その結果、酵素の活性部位はtRNAがアクセスしやすい"開いた構造"から化学反応に適した"閉じた構造"へと変化すると考えられ、硫黄転移反応時には、"閉じた構造"を形成することによって、反応性に富む過硫化硫黄を溶媒から隔離し、正確な硫黄化反応を遂行できる環境を作っていることを明らかにした。
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