膜タンパク質はエネルギー変換、膜輸送、情報伝達等、生命現象に最も重要な役割を果たしている。その立体構造を明らかにすることは、現象の本質的理解のためには不可欠である。異物排出タンパク質は細菌の細胞質膜から高等生物の細胞膜に至るまで広く存在する膜タンパク質で、細胞内に進入した異物(消毒剤や抗生剤あるいは抗癌剤)をプロトン駆動力やATP加水分解エネルギーを利用して細胞外に排出する働きを持つ。この異物排出タンパク質を発現することが病原性細菌や癌細胞における薬剤に対する耐性獲得の主因となっている。排出タンパク質の立体構造情報は異物認識機構の解明ばかりでなく、阻害剤の開発にも道を拓くものと期待される。 本タンパク質は非常に不安定で結晶化に適した標品を得るのが困難であったが、酸性条件下で精製することで、より安定な標品が得られることを見いだした。この標品を用いて広く結晶化条件をスクリーニングしている。また、同じMFS型に属するトランスポーターであるラクトース輸送体LacYではCl54Gという変異体を用いることによって初めて結晶化に成功し、構造解析がなされた。この変異によりLacYは基質を輸送できなくなるが、認識・結合能は失わずに立体構造が安定化された。このことから変異体を用いるのはトランスポーターの結晶化に有効な一手段であることが分かる。手持ちのTetA(B)変異体の中には、その遺伝子導入によって大腸菌に薬剤耐性を与えないものが多数含まれている。中でもG141C変異体は、そのシステインの修飾試薬による修飾が、基質であるテトラサイクリンの存在によって著しく阻害される。この基質を認識・結合するが輸送能を失ったTetA(B)のGl41C変異体は、LacYのC154G変異体同様に結晶化にとって有用であることが予想される。精製条件の検討の結果、ドデシルシュークロース、ノニルチオマルトシドを用いた場合に最も良好な標品が得られた。現在結晶化条件をスクリーニングしている。
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