本タンパク質は非常に不安定で結晶化に適した標品を得るのが困難であったが、酸性条件下で精製することで、より安定な標品が得られることを見いだした。また、同じMFS型に属するトランスポーターであるラクトース輸送体LacYではC154Gという変異体を用いることによって初めて結晶化に成功し、構造解析がなされた。この変異によりLacYは基質を輸送できなくなるが、認識・結合能は失わずに立体構造が安定化された。このことから変異体を用いるのはトランスポーターの結晶化に有効な一手段であることが分かる。手持ちのTetA(8)変異体の中には、その遺伝子導入によって大腸菌に薬剤耐性を与えないものが多数含まれている。中でもG141C変異体は、そのシステインへの修飾試薬による修飾が、基質であるテトラサイクリンの存在によって著しく阻害される。この基質を認識・結合するが輸送能を失ったTetA(B)のG141C変異体は、LacYのC154G変異体同様に結晶化にとって有用であることが予想される。精製条件の検討の結果、ドデシルシュークロース、ノニルチオマルトシドを用いた場合に最も良好な標品が得られた。しかし、その後のゲルろ過解析の結果から、いずれの標品もタンパク濃度が1mg/ml程度の低濃度(蛋白質結晶化には低すぎて不適)であれば単分散しているが濃縮した標品は非特異的会合を生じていることが分かった。本標品は結晶化に適さな事が予想されるため、他の安定化手段としてモノクローナル抗体の使用を検討した。けれども結晶化に有効な立体構造を認識するモノクローナル抗体の作製には至らなかった。今後も精製条件検討及び結晶化条件のスクリーニングを行い、構造解析可能な結晶の作成を目指す。
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