本研究は、基底膜蛋白質ラミニンがマウス胚性幹細胞(ES細胞)の分化に及ぼす影響を解析し、基底膜が細胞の分化制御にどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目標としている。平成19年度は、組換え蛋白として発現・精製した各種ラミニンアイソフォームを細胞培養基質として用い、各アイソフォーム上におけるES細胞分化パターンの比較を行った。1)ES細胞は胚様体形成法によって分化誘導を行った後、細胞を解離して各種ラミニンまたは他の細胞外マトリックス蛋白質でコーティイングした上に播種した。ラミニン511、フィブロネクチンは比較的強い細胞接着活性を示したのに対し、ラミニン211、411、IV型コラーゲンでは細胞接着活性が低かった。2)各種細胞外マトリックス上で培養した細胞から継続的に全RNAを抽出し、分化マーカー遺伝子の発現パターンを定量RT-PCR法により解析した。その結果、中胚葉分化マーカー遺伝子であるBrachyury、Goosecoidの発現レベルが接着基質によって大きく影響を受けることが示唆された。3)一方、胚葉体での分化誘導は異なる細胞系譜が混在することから、特定の系譜への分化誘導効率の評価には至らなかった。また、細胞分化の方向性には胚葉体ごとに差異があり、分化誘導条件を均一にすることが難しいなどの分化誘導系の問題点も明らかとなった。今後、ES細胞分化におけるラミニンアイソフォームの影響を評価するためには、細胞表面マーカー分子の発現などを指標に特定の分化系譜にある細胞を単離し、それを用いて基質上での培養を行う方法が有効だと考えられる。本研究の結果から、分化誘導刺激をうけたES細胞は細胞外マトリックス基質によって異なる接着性を示し、分化マーカー遺伝子の発現パターンも異なることが示された。このことから、細胞外マトリックスによる選択的分化誘導制御の可能性が示唆された。
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