研究概要 |
本研究課題は,分子シャペロンの一つであるHsp110の分子機構を構造生物学的手法によって解明することを目的とする.まず,出芽酵母,分裂酵母由来の細胞質Hsp110 orthologueをクローニングし,組換体タンパク質として大腸菌の系で発現させ,高純度に精製することに成功した.さらに,両タンパク質について結晶化条件の検索を行った結果,複数の条件で結晶が得られた.これらの条件の最適化を行い,実験室の回転陽極型X線発生装置を用いて予備的なX線回折実験を行ったところ,最高で分解能3.5オングストローム程度の回折が得られた.今後はさらなる結晶の質の改善を進めるとともに,シンクロトロン放射光施設で回折データ測定を行う.また,構造解析と平行して行っている機能解析によって,これまでに報告されているHsp70との共同的な細胞質内タンパク質の機能について,Hsp110がHsp70のヌクレオチド交換因子として働いていることを示した.Hsp110のC末領域がHsp70のATP加水分解ドメインに結合することによって,ヌクレオチドの交換を促進しているものと考えられる.さらに,一般的なHsp70に加えて,リボソーム結合型のHsp70とも物理的に相互作用し,共同的に機能することも示した.これらの結果により,これまでに同定されているHsp70システムのタンパク質群に加えてHsp110も重要なその構成要素であることが明らかになった.
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