研究概要 |
本研究課題は, 分子シャペロンの一つであるHsp110の分子機構を構造生物学的手法によって解明することを目的とする. 同時進行の機能解析によって, Hspl10がHsp70のヌクレオチド交換因子として働くことを本研究で既に明らかにしている. 最近, 出芽酵母, 及びヒト由来のHsp110の結晶構造が幾つか報告されており, 原子レベルでの立体構造情報と, 詳細なメカニズムとの関係が次第に明らかになりつつある. しかし, Hsp110がヌクレオチド交換因子として働く際に, 自身のヌクレオチド結合により活性が制御されているかについては, 生化学実験では共通理解が得られておらず, まだ良く分かっていない点である. これまでにはヌクレオチド非結合型のHsp110の結晶構造はまだ報告されていない. まず, 分裂酵母由来の細胞質Hsp110全長タンパク質を精製し, ヌクレオチド非存在下での結晶化条件の検索および最適化により回折実験に使用できる結晶を調製した. 放射光施設SPring-8のビームラインBL41XUにて回折データ収集を行い, 最高分解能4.0Aの回折データを得ることに成功した. これらのデータと既知の構造の情報を用いて位相付けを行い, モデリング, 構造精密化を行ったところ, 720アミノ酸残基中, 660残基分のモデルを構築し, 精密化終了後の結晶学的R値は0.382(R_<free>=0.431)であった. 基質結合部位にはヌクレオチドの電子密度は見られず, ATP結合ドメインは結合型に比べて約1度開いた構造をとっており, さらに全体構造にも隙間がより多く見られ, ゆるやかなパッキングをしていることが確認された. ATP誘導体結合型の結晶構造と比較して全体構造に比較的大きな差異が見られ, 今回のヌクレオチド非結合型の構造解析の結果はHsp110がヌクレオチドの結合によりその機能が制御されていることを示唆している.
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