ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、ヘム代謝(一酸化炭素・鉄・ビリベルジンへの分解)を触媒する酵素であり、生体内で様々な重要な役割を果たしている。我々は、生理的に可能な条件下で、HOがビリベルジンとは異なる生成物(含硫ビリベルジン)を与えることを見いだし、この新たなヘム代謝反応の解明を目的としている。本年度は、含硫ビリベルジンの同定・大量合成・生成メカニズム解明を試み、その生理的意義の解明にむけた化学的基盤の整備を進めた。 LC-MSによる生成物分析の結果、含硫ビリベルジンの分子量はビリベルジンより16増加していることが示された。MS/MSおよび同位体を用いた実験から、基本骨格はビリベルジンと同じであるが、ラクタム酸素の1つが硫黄に置換されていることも明らかとなった。また、含硫ビリベルジンを還元すると、ビリベルジンの場合と同様に、対応する含硫ビリルビンが生成した。チオラクタムへの変換による化学的特性変化(特に抗酸化活性)の詳細は現在検討中であるが、ビリルビンの吸収極大は約60nmもシフトし、光異性化特性などは大幅に変化するものと考えられる。 次に含硫ビリベルジンの大量調製を目指し、粗酵素溶液による再構成系を構築し、サブmgスケールでの合成に成功した。しかし、酵素反応で得られる含硫ビリルビンは安定性と溶解度が低く、単離収量ではサブmgが現時点での上限である。そこで化学的合成法にっいても検討し、含硫ビリベルジンを10mgスケールで合成することに成功した。単離品について^1H-および^<13>C-NMRを測定し、その構造を確認した。今後、2次元NMRの測定により、2種の生成物異性体の同定を行う予定である。
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