研究課題
現在、水素エネルギーは水を電気分解して水素を取り出している。しかし、電気分解のために電気エネルギーが必要であり、決して効率良いエネルギーの生産方法とは言えない。光合成生物は太陽光エネルギーを用いてまず、水から電子を引き抜き、酸素と水素イオンを作っている。この初発の反応で生じた水素イオンを取り出し、還元して水素ガスにし、水素エネルギーとして利用すれば、効率良いエネルギー生産の方法に応用できると期待できる。この時、より多く水素イオンを作る反応系を作る、つまり、より速い水分解反応システムを作れば、より効率的である。その為には、まず光合成の水の酸化機構について十分に知らなければならない。本研究では、光合成の水の酸化反応機能について、分子レベルで明らかにすることを目標とした。光合成による水の酸化メカニズム、特に効率良く水から電子を引き抜くために、第一電子供与体となるP_<680>が+1.2Vという生物界で最も高い酸化還元電位を保持していると考え、研究第1年目に当たる平成18年度では、P_<680>と考えられているクロロフィル分子のリガンドとなるアミノ酸Hisを別のアミノ酸に置換した好熱性シアノバクテリアの遺伝子組変え体を作製し、P_<680>周辺の分子構造と水の酸化機能への影響について調べた。まず、光化学系II反応中心タンパク質DIをコードする遺伝子はゲノム上に3つあるので、2つをノックアウトした遺伝子組換え体を作製し、その後、それを宿主細胞にして3つめの遺伝子に部位特異的変異を導入した組換え体を作製した。細胞あたり約100コピーある遺伝子が全て置き換わったことを、PCRおよびDNAの配列を解析することにより確認した。組換え体を大量培養し、光化学系II合体タンパク質を精製し、生化学的、分光学的、熱力学的解析を行った。その結果、予想とは反して、P_<680>の酸化還元電位は約30mV下がっており、水の酸化キネティクスやオシレーションパターン等には大きく影響を及ぼさなかった。リガンドのアミノ酸がP_<680>の酸化還元電位の保持に大きく影響していないことが初めて明らかになった。
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Biochemistry 46
ページ: 3138-3150
Biochemistry 46(印刷中)
Biochemistry 45
ページ: 13454-13464