これまでの研究結果から、ATR合成酵素複合体中でもεサブユニットがATP結合能を持つ事が強く示唆された。 そこで、本年度発表の論文では、様々なATP結合能を持つアラニン置換変異体εサブユニットを含む、ATP合成酵素のα_3β_3γε部分複合体のATPase活性調節を詳細に検討した。その結果、阻害に直接関与すると考えられる残基をアラニンに置換した変異体を唯一の例外とし、それ以外の変異体では、εサブユニットへのATP結合が弱ければ弱いほど、ATPase活性を阻害する効果が強くなる事が明らかになった。また、εサブユニットへのATP結合が活性調節の際に起こるεサブユニットの構造変化のきっかけであるかを調べた。このために、α、βサブユニットのATP結合能を無くした変異体α3_β_3γεを作成し、ATPの添加に伴うεサブユニットの構造変化を検討した。その結果、変異体ではATPの添加に伴うεサブユニットの構造変化は起こらない事が明らかになった。このことは、εサブユニットへのATP結合のみではεサブユニットの構造変化は起こらず、触媒サブユニットであるβサブユニットへのATP結合によって構造変化が引き起こされる事を意味する。εサブユニットへのATP結合には、一旦活性化した複合体を活性化状態に保つ働きがあると考えられる。実際、野生型のα_3β_3γε複合体では、一旦活性化した複合体は、ATP濃度を下げても活性化状態を保つが、ATP結合の弱まった変異体εサブユニットを含むα_3β_3γε複合体では、反応液のATP濃度を低下させる事で活性化した複合体の再不活性化が観察された。 これらの結果より、ATP合成酵素の新たな活性調節機構を提案する事が出来た
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