研究概要 |
本年度はまず、井出ら(Ide et al., BBRC 1999)が開発した水平平面膜法を改変し、分子モーターであるATP合成酵素のプロトン駆動力(細胞膜を介するプロトンの濃度差と膜電位により形成)による回転運動を直接観察する実験系の構築を行った。その結果、大腸菌由来F型ATP合成酵素および好熱菌由来V型ATP合成酵素の、ATP加水分解駆動による回転の観察に成功した。しかしながら、1)回転の発見頻度が非常に低い、2)回転速度に対する明確な膜電位依存性がみられない、という問題点に突き当たった。 上記1)の問題点を解決するためにまず、平面膜に再構成したATP合成酵素が機能を保持していることの確認実験に取り組んだ。具体的には、ATP合成酵素の触媒部位に結合した蛍光化ATP(ADP)の解離が膜電位によって促進されるかを検証した。 また、上記2)の問題を解決するため、我々が回転観察に用いているATP合成酵素のATP合成活性を多分子計測により徹底的に調べた。ATP合成活性の基質濃度依存性、プロトンの濃度差および膜電位依存性を調べた結果、1)プロトンの濃度差と膜電位はATP合成の駆動力としてほぼ等価であることおよび、2)ATP合成に必要なプロトン駆動力には閾値が存在しF型ATP合成酵素およびV型ATP合成酵素のどちらもプロトン駆動力が150mV以下ではほとんどATPを合成しないこと、を明らかにした。 さらに平面膜の代わりに巨大膜小胞(ジャイアントリポソーム)を利用した実験系の開発に取り組んだ。本年度は、ATP合成酵素を再構成したジャイアントリポソームの調製に成功した。
|