本年度は、1)ガラス基板に支持された脂質二重膜の作製、2)基板支持膜へのF_0F_1-ATP合成酵素の再構成、3)再構成したATP合成酵素のATP加水分解駆動による1分子回転観察、4)基板支持膜を電気的にシールし膜電位をかけるための微小開口電極の作製、を行った。詳細を下記に示す。 1)基板支持膜の形成には、基板に結合させた脂質膜小胞の乾燥および再水和を用いた。様々な種類および組成のリン脂質を試した。その結果DOPEの添加により、面積数100μm^2にわたる大きな脂質二重膜をNi-NTA修飾ガラス基板上に再現性よく形成させることが可能になった。 2)ATP合成酵素の再構成には、a)ATP合成酵素を再構成した膜小胞を、あらかじめ形成させた基板支持膜に融合させる、b)基板支持膜形成時にあらかじめ上記のATP合成酵素再構成膜小胞を加えておく、の2つの方法を試した。その結果、後者の方法で基板支持膜へATP合成酵素を効率よく組み込むことが可能になった。 3)再構成したATP合成酵素は、F_0-cサブユニットまたはF_1-βサブユニットを介してNi-NTA修飾基板上に固定した。直径200nmのラテックスビーズをプローブに用いてATP駆動による回転を1分子観察した結果、以前の水平平面膜法を用いた結果とは異なり、どちらの固定法でもATP飽和条件において、プローブの負荷にのみ依存しか高い最高回転速度が得られた。この結果から、基板支持膜に再構成したATP合成酵素の活性は阻害されておらず機能を保持していることが明らかとなった。 4)中央に円錐状構造を持つ金属板を鋳型にし、直径20-30μm程度の開口を持つポリジメチルシロキサン(PDMS)シートを作製した。これを用いて基板支持膜を電気的にシールすることを試みたが、現時点では、数メガオーム程度の抵抗値しか得られておらず、改善が必要である。より小さな開口径の形成や、PDMSシートの表面処理を試みている最中である。
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