本課題の目的は、ATP加水分解酵素であるF1-ATPaseが持つ2つの状態、活性型-阻害型の遷移の機構を明らかにすることである。F1-ATPaseは、3種類7つのサブユニットα3β3γからなり、ATP加水分解の触媒部位はβサブユニット上にあることが明らかにされている。また、この分子モーターの特徴のーつとして、ATP加水分解活性をもたない休止モードをもつこと(阻害型)が明らかにされている。昨年度は多分子系を用いて、活性型、阻害型それぞれのヌクレオチド結合数を調べたが、どちらも同じヌクレオチド結合数であることが分かった。その延長にあるが、本年度は、より広範囲のATP濃度で、より詳細にヌクレオチド結合数の違いを調べてみたところ、低いATP濃度(μM以下)においては、活性型、阻害型のヌクレオチド結合数が異なる可能性を示唆する結果が得られた。これまでのところ、両者の結合数の違いが何によるものかは明らかではない。 しかし、多分子系の実験と平行して行っているF1-ATPaseのγサブユニットの回転の1分子顕徴鏡観察によって、両者(活性型、阻害型)のヌクレオチド結合数の違いが見られた低いATP濃度でのみ起こるγサブユニットの回転の特徴を見つけた。この特徴が活性型-狙害型の遷移にどういう役割を果たしているかを明らかにするにはより詳細な解析を行う必要がある。今後は、触媒活性部位βサブユニット、非触媒活性部位αサブユニットへのヌクレオチドの結合がATP加水分解活性にどういう影響を与えるかを1分子顕微鏡観察を通して明らかにしていきたい。
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