研究課題
本課題の目的は、ATP加水分解酵素であるF_1-ATPaseが持つ2つの状態、活性型一阻害型の遷移の機構を明らかにすることである。F_1-ATPaseはATP存在下で活性型一阻害型の2つの状態を確率的に行き来することが知られている。本研究では、系の単純化のため、阻害型から活性型へ遷移するためのスイッチの役割を果たすといわれるαサブユニットへのヌクレオチドの結合ができない変異体を用い、活性型→阻害型の一方向の遷移のみが起こるようにし、ヌクレオチド結合数の変化に注目して実験を行った。その結果、予想に反して活性型、阻害型においてヌクレオチドの結合数は同じであった。結合ヌクレオチドの種類、ATPまたはADP、については現在実験中である。また、本研究の最終目的ではなかったが、ATP再生系の要素であるPhosphoenol Pyruvate(以下PEP)がF_1-ATPaseへのヌクレオチドの結合を競合的に阻害することがわかった。これまで他の研究者により、りん酸がF_1-ATPaseへのヌクレオチドの結合を競合的に阻害すること、また活性型-阻害型の平衡を活性型が多いほうヘシフトすることが報告されていたが、PEPは競合阻害はするが活性型一阻害型の平衡には影響を及ぼさなかった。本課題の遂行において、測定溶液中のATP濃度を一定に保つことは必須であったため、上述のPEPは殆どすべての実験で用いられていた。その結果、これまで理解できなかった実験結果の矛盾点を説明できるようになり、F_1-ATPaseのATP加水分解機構の解明に貢献できたと感じている。これらの実験結果・考察についての論文は現在投稿中である。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Biophys. J. 95
ページ: 761-770