研究概要 |
ApoEは、アルツハイマー病患者の脳に見られる蛋白質沈着物(老人斑)の構成蛋白質として早くから同定されており、Aβのアミロイド形成を促進することが示唆されてきた。しかし、アルツハイマー病の神経病理がApoE遺伝子型により異なるという報告もあり、ApoEアイソフォームはアミロイドの化学的性質に影響を及ぼす可能性が考えられる。つまり、ApoEはアミロイド形成を制御する重要な蛋白質であると示唆されるが、その詳細な機構に関しては明らかでない。まず、ApoE蛋白質のアイソフォーム(E2,E3,E4)を大腸菌に発現させたところ、全てのアイソフォームにおいて毒性が認められた。そこで、培養温度を下げ緩やかな発現誘導を行うことで、培養液1LあたりmgオーダーでのApoE蛋白質の精製に成功した。一方、大腸菌においてAβペプチド単独ではその発現を認めることができなかったものの、GST蛋白質と融合させることで発現量を増加させ、精製後にプロテアーゼで切断することでAβペプチドを大量に得る手法を開発した。また、再構成Aβペプチドは一定時間後に直径が約10nmの線維状凝集物であるアミロイドを形成することを原子間力顕微鏡により確認した。ApoE蛋白質単独では線維状凝集物の形成を確認できなかったが、ApoE蛋白質はAβペプチドのアミロイド化を遅らせることが分かった。特に、Aβのアミロイド化を遅らせる効果はE3よりもE4の方が弱かったことから、脳内にAβアミロイドが蓄積するまでの時間がApoEの遺伝子型に依存する可能性が考えられた。
|