研究概要 |
本研究の目的は,生細胞内の目的タンパク質にケミカル(低分子化合物)を導入し,それを利用して近傍の生体分子を同定するという新しい相互作用因子解析法(INSPIC法)を開発し,その有用性を検討することである. 当初の計画では初年度に,諸パラメーターの条件検討と最適化を行ない,系を確立することを目標に設定したが,それ以前の問題として,そもそも部位特異的に導入したクロスリンカーが近傍の分子を同定する上で有効であるかどうかを検討する必要があったので,in vitroのモデル系を用いた解析をまず行なった.具体的には転写伸長因子HDAgに,Cys残基を介して光活性化型クロスリンカーN-((2-pyridyldithio)ethyl)-4-azidosalicylamide(AET)を導入し,RNAポリメラーゼIIのHDAg結合表面の決定を試みた.RNAポリメラーゼIIは12個のサブユニットからなり,そのX線結晶構造がすでに得られている.解析の結果,HDAgはRNAポリメラーゼIIのRpb1サブユニットのN末端およびRpb2サブユニットのC末端と特異的にクロスリンクされることが分かった.これらの領域はRNAポリメラーゼIIの立体構造の中でクランプと呼ばれるドメインに相当することから,HDAgはRNAポリメラーゼIIのクランプに結合すると考えられる.この知見は,転写伸長因子の作用の分子メカニズムを理解する上で重要であろうと考えられる(Yamaguchi et al.2007). 部位特異的クロスリンク法の有効性をin vitroで確認することができたので,次に当初の計画に従って,細胞内でのクロスリンクを効率的に行なわせるための条件検討を行なった.まだ条件検討の途中で,明確な結論は得られていないので,2007年度も引き続き条件検討を行なう予定である.
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