本年度においては、出芽酵母のノックアウトライブラリーを用いて、機能不全リボソームの選択的分解に異常を来たす変異株の道程を進めた。その結果、遺伝子欠損により機能不全リボソームを細胞内に蓄積する変異株を2株、発見することができた。これらの株は以前からの報告により、お互いにDNA損傷修復に関わる因子であることが分かっているものであった。このことから、DNAの損傷修復とリボソームRNAの品質管理が、同じ遺伝子の支配下で行われていることが明らかになった。DNAに損傷が生じるようなストレス(薬剤や紫外線、活性酸素の発生など)がある場合、細胞の中にあるRNAも同様の損傷を受けていると考えられる。中でも細胞のRNAの80%を占めるリボソームRNAはDNAよりも量が多いだけでなく、リボソームの活性中心を構成する重要な役割を果たしており、このような状況で損傷したリボソームが活性を失う場面も少なくないと考えられる。今回の発見から、細胞がさまざまな化学的・物理的ストレスから核酸一般を保護するための新たな戦略が明らかになったと言える。またこの現象の生理的な意義を理解するために、これらの変異株で機能不全リボソームを発現させた場合(分解されず、細胞内に野生型と同様に蓄積される)の細胞の増殖能を検定した。この結果、機能不全リボソームが細胞内に存在すると細胞の増殖はおよそ20%ほどの阻害を受けるということが明らかになった。このことはリボソームの品質管理が細胞の適切な増殖にとって必須の役割を果たしていることを示唆している。
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