ゲノム上で厳密に制御される遺伝子発現の全貌を理解する上で、RNAポリメラーゼの機能分化が重要であると考えられる。大腸菌の基本転写装置RNAポリメラーゼの分子構造は明らかである。大腸菌RNAポリメラーゼ機能分化を誘導すると考えられるDNA結合性転写因子の作用機構を調べるため、単純な特定のアスパラギン酸のリン酸化で活性化するレスポンスレギュレーターのDNA結合能および分子内機能制御について解析した。大腸菌レスポンスレギュレーターCpxRは細胞外高濃度銅イオンにより、活性化され、少なくとも15プロモーターを活性化する。そこで、CpxRレギュロンの15プロモーターに対して、CpxRの全ての結合特性を生化学的に測定した。その結果、結合認識シグナルである5塩基リピート配列(CpxR-box)が保存されていることに加え、リピート間のスペーサーの長さに多様性を見出した。さらに、結合強度が、これらの特徴とは無関係な、保存性が低いCpxR-boxの4塩基上流のアデニンが関与していることが示唆された。これらの結果は、CpxRレギュロン間において発現制御のヒエラルキーが存在し、ゲノム上の、転写因子が認識するコア配列以外のシス因子がヒエラルキー決定の重要な要素であると考えられた。さらに、ケミカルクロス法によるレスポンスレギュレーターの二量体形成能が解析された。その結果、YgiXの二量体形成が検出された。そこで、YgiXのリン酸化部位である51番目のアスパラギン酸を様々なアミノ酸に置換した5種類の変異YgiXを精製した。これらの変異YgiXは野生型と同様に二量体を形成することが確認された。これらの結果は、レスポンスレギュレーターの活性化について新しい分子機構モデルを与え、今後に展開されるRNAポリメラーゼ活性における制御機構の解析に大きな示唆をもたらした。
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