当初の研究計画では、DRCR(double rolling-circle replication)増幅系の分子機構解析(平成18年度)とその解析の多角的な展開(平成19年度)に続いて、動物細胞への応用検討(平成20年度)を開始する予定であったが、特許戦略上、Cre-lox増幅系の効率化と動物細胞への応用に迅速に着手する必要に迫られた。これはCre-lox動物細胞系がタンパク質医薬生産に大きく貢献する可能性があるため、出芽酵母系の特許(特願2005-338119)の公開期日(平成19年5月24日)迄に動物細胞への応用の可否を暫定的に検証しようとするためである。 Cre-lox出芽酵母増幅系の効率化のために、高コピー数の染色体内増幅産物が形成する頻度上昇と増幅の誘導時間の至適化を試みた。前者ではテロメア近傍からの複製による副増幅産物の形成を抑え、相対的に染色体内産物の形成効率を高めようとしたが、上述の複製起点は他染色体との相同性のため欠失させにくいことが判明した。一方後者では増幅誘導時間を1.5時間に短縮した際、染色体内増幅産物の形成頻度が上昇した。 動物細胞への応用のため、薬剤MTXによって増幅が誘導される薬剤抵抗性遺伝子DHFRを、複製開始配列、2組のlox配列と共にラットゲノムBACクローン上に配置し、Flp-Inシステム(Invitrogen社)によりCHO細胞の染色体の特定部位に挿入した。さらにこの細胞にCre発現により増幅を誘導し、MTXで選択して多数の耐性株を得た。しかしサザンブロット法で解析した結果、DHFRの増幅は確認できなかった。原因として動物細胞での増幅反応の至適化が不十分であること、増幅細胞は存在するが多数の非増幅細胞に混在しているため検出方法が不適切であること等が挙げられる。今後は増幅誘導や選択方法の最適化、検出方法の改善等に取り組む。
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