当初の研究計画では、DRCR(double rolling-circle replication)増幅系の分子機構解析(平成18年度)とその解析の多角的な展開(19年度)に続いて、動物細胞への応用検討(20年度)を開始する予定であったが、より優生すべき研究項目に注力するため18年度より動物細胞にCre-lox-DRCR系を応用し、19年度にその確立と酵母系の分子機構解析を実施した。本年度は動物細胞での増幅産物を詳細に解析し、さらにCre-lox系を拡張し天然に起こる遺伝子増幅を説明できるモデルの実証に着手した。 昨年度、CHO細胞にCre-lox増幅を誘導し、FISH法により解析したところ、染色体上の増幅産物(HSR)、染色体外因子(DMs)、複数の染色体に点在する産物が観察された。そこで本年度はサザンブロット法により染色体上の増幅産物の構造を解析した結果、ゲノム再編成により薬剤耐性に必要な増幅マーカー近傍のみが高度に増幅しており、Cre-lox増幅で予想される構造の検出は困難であることが判明した。今後は今回の実験をもとに増幅選択期間を短縮しゲノム再編成の影響を最小限に留めてCre-lox増幅を構造から証明することが期待できる。 一方、Cre-lox-DRCRはDNA複製と組換えの協調反応として捉えることができ、Cre-lox組換えを一般の相同組換え反応で置き換えることができれば、癌悪性化や薬剤抵抗性獲得に伴う遺伝子増幅を説明できる可能性がある。本年度はこれを実証するため、酵母及びCHO細胞にDRCR誘導のための逆位反復配列をゲノム上に構築することを試みた。酵母では構築が完了し、サザンブロット法により予想通りの染色体上の増幅産物・染色体外因子を検出することに成功した。現在より詳細な解析を進めると共にさらに増幅系に改良を加えることを検討している。CHO細胞については、長い逆位反復配列を配置するための2種類の部位特異的組換え系を用いた系の作動確認を行っている。今後その反復配列をDRCR誘導可能な構造とするゲノム工学的手法についても確認し、薬剤選択による増幅細胞の検出を試みたい。
|