本研究の目的は、脂肪細胞の分化過程に現れるマクロスケールのダイナミクス(1μm〜1mm;数10min〜1week)に着目して、脂肪細胞の分化機構を解明することである。そこで本年度は、現有の微分干渉顕微鏡システムに加え、位相差顕微鏡による長時間観察システムを立ち上げた。これらのシステムを用いることで、脂肪分化の全過程を様々な倍率でタイムラプス撮影することに成功した。この結果をもとに、課題1:細胞質内における脂肪滴の動態、課題2:細胞形態の変化、課題3:脂肪細胞の組織化について解析を行った。 分化中の細胞では、まず直径1μm以下の脂肪滴が葉状仮足内で生成し、その後この脂肪滴は細胞の中心に向かって移動するが、細胞体との境界部分に達すると移動が止まることが分かった。また、この移動は直線的であること、移動過程で隣接した脂肪滴との融合を繰り返して最終的に直径数μmにまで成長することが明らかとなった。さらに、脂肪滴結合タンパクであるペリリピンの蛍光染色を行ったところ、直径1.8μmを超える脂肪滴の表面にペリリピンが局在していたことから、脂肪滴の移動・融合の制御に対するペリリピンの関与を示唆した。次に、細胞形態の"非対称性"を面積が等価な円からのはみ出し量として定義することで、分化初期から後期へ至る過程で"非対称性"が25%に減少、つまり等方性が4倍となることを明らかにした。また、F-actinを蛍光染色して細胞の3次元形態を観察したところ、細胞の高さ(厚さ)と内部に含まれる最大脂肪滴の直径がほぼ一致していることを見出した。細胞の組織化については、分化後期において細胞が密集することと細胞核が見えなくなることにより、個々の細胞の運動から組織化を定量化することは困難であった。そのため、次年度は細胞集団のクラスターサイズによる定量化を試みる。
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