本研究では、多様な細胞内シグナル伝達で中心的な役割を果たすプロテインキナーゼであるERK/MAPキナーゼをモデル系とし、その細胞内基質群を網羅的に同定するための新たなリン酸化プロテオーム解析法を開発して、得られた新規ERK基質のリン酸化による機能制御を解明することを目標としている。これまでに、IMACによる全細胞抽出液からのリン酸化タンパク質の濃縮・精製法と蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)技術を組み合わせることにより、ERK経路に位置するリン酸化タンパク質を多数同定することに成功している。本年度はまず、ERKのリン酸化モチーフを認識する抗リン酸化モノクローナル抗体によるイムノブロットイメージと2D-DIGEイメージをマッチングすることにより、新規ERK基質候補を24種類まで増やすことができた。その結果、細胞骨格、翻訳、タンパク質分解とフォールディングに関わるタンパク質がERKの主要な標的基質となることが判明した。そして昨年度に見い出した細胞質ダイニンの中間鎖DYNC1I2だけでなく、軽中間鎖DYNC1LI1もERKの基質となることを明らかにした。またヌクレオポリンの一つNup50/Npap60がERKによってリン酸化されるとimportin-βとの結合が阻害されることを既に示していたが、Nup153とNup214/CANも同様にERKによってリン酸化されてimportin-βとの親和性が低下することを示した。従って核膜孔複合体中の種々の構成因子をERKがリン酸化することにより、importin-β依存的な核内輸送が制御される可能性が示唆された。
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