細胞核はゲノム機能の発現のための物理的な足場を提供するが、一方で非常に動的な構造体である。分裂酵母では、減数分裂を誘導するとセントロメアはスピンドル極体(SPB)から離れ、減数第一分裂で還元分裂が起こる。この制御には減数分裂特異的にセントロメア蛋白質群の消失・再出現を制御し動原体を形成する機構が関与することが示唆されている。そこで、セントロメア蛋白質の消失・再出現に必要な因子の同定をおこなった。セントロメア蛋白質の消失は接合フェロモンのシグナルによって誘導されることが種々の解析から明らかとなっているため、因子を同定する方法としては、接合フェロモンのシグナルを活性化した条件下で発現誘導される遺伝子群をDNAマイクロアレイによる発現プロファイル解析によって選び、それらの遺伝子破壊によってセントロメア蛋白質の消失がおこらなくなる遺伝子をスクリーニングするという方法をとった。コントロール株と比べて発現量が増加する遺伝子の中から、増殖に必須の遺伝子や代謝に関連する遺伝子を除いた56個の遺伝子を破壊することとした。これらの遺伝子破壊実験については現在も進行中であり、今後の解析によって染色体配置変化と還元分裂に特異的な動原体形成をもたらす分子機構へと繋がることが強く期待される。また今年度は生細胞観察中の特定の細胞を電子顕微鏡でも観察する方法として、光学顕微鏡-電子顕微鏡相関解析法(Correlative Light and Electron Microscopy)を分裂酵母の生細胞に適用することを試みた(ライブCLEM法)。蛍光顕微鏡で観察中の細胞を任意のタイミングでグルタルアルデヒドで固定し、脱水、樹脂包埋したのちに薄切し、透過型電子顕微鏡で観察した。この方法を用いれば、蛍光色素による観察から出発して細胞の超微細構造までもが観察できるため、今後の細胞核構造の解析に役立つものと期待される。
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