生物の進化過程で重要な役割を果たした要因の一つと考えられている発生調節遺伝子の発現調節メカニズムについて、転写制御領域の構造的変化が転写調節能力と遺伝子ネットワークの進化にどのようにつながったかを解明することが本研究の目的である。本研究では、ウニ類の内中胚葉形成メカニズムのキー遺伝子のひとつであるWnt8遺伝子の転写調節領域(モジュールA)をモデル系として採用し、このモジュールAの構造と機能を、様々な遺伝距離にある同種個体間あるいは種間で比較する。様々な種から得たモジュールAの構造の比較と、機能的多様性の解析から、個体発生で重要な役割を果たす遺伝子発現調節領域(シスエレメント)が長い進化過程でどのような構造的・機能的多様性を獲得したのかをあきらかにする。 平成18年度は約二億年前に共通祖先から分岐した二種のウニ(バフンウニとハスノハカシパン)のモジュールA相同領域の塩基配列の比較を行い、祖先型ウニの段階で既に存在し、現在まで保存されているモジュールA内の領域(機能エレメントと推定される)を同定することと、二つの種の分岐後に生じた「新しい」機能エレメントの同定を目標とした。本年度は以下の四項目の成果を得た。 1、二種のウニそれぞれからWnt8 cDNAをPCR法で単離し、その塩基配列を決定した。 2、ゲノムウォーキング法で二種のウニそれぞれからWnt8遺伝子の転写調節モジュールA相当領域を単離、その塩基配列を決定した。 3、二種類のウニから得たAモジュール相当領域の塩基配列を塩基配列解析ソフトウエア(FamilyRelations)で分析し、複数の新規機能エレメント候補領域を同定した。 4、成果3で明らかになった新規機能エレメント候補領域の転写調節能を検討するため、モジュールA領域とリポーター遺伝子の融合遺伝子を作成した。現在、この融合遺伝子をもちいて機能解析実験を行っている。
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