本研究は、ホヤの変態期に働く遺伝子カスケードを、ゲノミクス、プロテオミクス、そして遺伝学的手法を駆使した解析を行うことにより明らかにし、ホヤ変態メカニズムの全容を解明することを目的としている。本年度は、ゲノミクス、プロテオミクス、遺伝学の全てのアプローチからの研究を進めた。 ゲノミクス的解析では、カタユウレイボヤの変態に異常を示す突然変異体swimming juvenileについて、マイクロアレイを用いて遺伝子発現を正常型個体と比較し、突然変異体において上昇、もしくは減少している遺伝子を突き止めた。続いてその遺伝子の発現をReal-time PCR法により再確認し、両方の手法で変異体と正常型で発現に差が認められる遺伝子のリストを作製した。これらの遺伝子のうち、2個に着目してモルフォリノオリゴによる機能阻害実験を進めている。 プロテオミクスにおいては、ホヤ幼生において変態をコントロールする中心として働く付着突起に着目し、幼生から付着突起のみを集め、2次元ゲル電気泳動による解析にかけた。その結果、付着突起は幼生の他の領域と比較してタンパク質の存在が特異であることが判明した。これらのタンパク質について、包括的に同定する必要があるため、徳島大学の谷口教授の協力の下、タンデムマスを用いての付着突起に存在するタンパク質の同定を試みた。その結果、100を超えるタンパク質の断片配列のリストを得た。今後、このリストの中からホヤ変態に関わるタンパク質を同定することを目指している。 遺伝学的解析では、一つ重要な変異体を単離した。tail regression failure(trf)と名付けた変異体は、正常な幼生にまで発生し付着する。しかし付着に伴った変態の開始に異常を生じ、尾部の吸収が生じない。一方体幹部の変態現象である成体組織の成長やアンプラの形成は認められる。この変異体の観察から、ホヤの変態には少なくとも2つの独立したパスウェイが存在することが明らかになった。
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