本研究はホヤの変態期に働く遺伝子カスケードを、ゲノミクス、プロテオミクス、そして遺伝学的手法を駆使した解析を行うことにより明らかにし、ホヤ変態メカニズムの全容を解明することを目的としている。本年度は特に遺伝学と神経系に着目したアプローチからの研究を進めた。 前年度単離した突然変異体tail regression failed(trf)は、正常な幼生にまで発生し付着する。しかし付着に伴った変態の開始に異常を生じ、尾部の吸収や付着突起の縮退、脳胞彩態の変化が生じない。一方体幹部の変態現象である成体組織の成長やアンプラの形成は認められる。この突然変異体を詳細に解析し、この変異体では尾部吸収に必要なアポトーシスが生じないこと、神経系に異常が生じている可能性が高い一方で、神経系の形態には異常がないことを確かめた。この変異体の表現型を、変態イベントが自律的に生じる突然変異体swimming juvenileと比較し、ホヤの変態現象は独立した4つのグループに分けられることを明らかにした。続いてホヤの変態に必要な神経回路網を同定するため、神経伝達物質並びにその阻害剤の変態への影響を調べ、ホヤの変態に関係する少数の神経細胞群を特定した。さらにホヤ幼生から変態期にかけてのの神経系や成体組織の形成過程を詳細に調べるため、これらの組織で特異的にレポーター遺伝子を発現させるトランスジェニック系統を作製した。この系統を用いて、変態過程における神経系や成体組織の変化を記述した。 以上2年間の研究から、ホヤ変態の基礎的パスウェイを解明し、それに関わる分子、細胞を同定した。今後の目標は本研究で得られた情報を有機的につなげ、変態メカニズムの全体を明らかにすることである。
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