尾索類ホヤの咽頭部に存在する鰓嚢関連形質(鰓裂/鰓孔や鰓嚢血管など)の研究は、後生動物の咽頭構造の起源と進化を考える上で重要である。本研究では、ゲノム解読種として充実した遺伝子情報を持つカタユウレイボヤを研究材料として用い、ゲノムワイドなEST/マイクロアレイデータ解析、各種成体器官を用いたプロテオーム解析、咽頭内胚葉で働くことが知られている分子の類似性に焦点を当てた遺伝子選択、多検体whole-mount in situ hybridization(WISH)法を用いた発現スクリーニングにより、鰓嚢で特徴的に発現する遺伝子の同定を試みた。その結果、鰓嚢の咽頭上皮側の構造物である、縦走血管、横走血管、二次乳頭状突起、背膜において領域的な発現パターンを示す遺伝子を、計27遺伝子を得ることができた。そこで、成体および幼若体の鰓嚢における詳細な発現解析とパターン化を行ったところ、咽頭上皮構造物の形態や形成メカニズムの理解に必要なマーカー遺伝子を絞り込むことができた。さらに、蛍光二重WISH法を用いたマーカー遺伝子の比較発現解析を行ったところ、咽頭上皮構造物の形態的特徴とマーカー遺伝子が発現する細胞集団との位置関係を、直接的に理解することができた。これらの取り組みの結果、横走血管、縦走血管、二次乳頭状突起には分子的背景が異なる細胞集団が複数存在し、それらが特徴的な領域とパターンを形成していることが明らかとなった。また、異なる形態として認識されている横走血管、二次乳頭状突起、背膜におけるマーカー遺伝子の発現が、それぞれ相関したパターンを示すことから、それぞれの形態は類似の分子メカニズムを基盤として持つ可能性がでてきた。その他、小型の気相低温インキュベータ内で手軽にカタユウレイボヤ幼若体を育成できる飼育システムを開発し、ホヤの研究グループにその手法を公開した。
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