研究概要 |
これまでに、フォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の阻害剤であるLY294002(LY)が、メダカのヒレ再生を著しく阻害することを明らかにした。さらに再生芽形成が抑制されるとともに、ヒレ内部の血管再生も阻害されていた。再生時における血管の働きについての知見はこれまでほとんどなく、再生芽の形成に血管が重要な役割をしていること、またその過程にPI3Kが関与していることが予想された。まず始めに、再生芽形成と血管再生の関連性を詳細に調べた。in situ hybridization法により、血管新生に関わる分子であるangpt12,angpt17が再生芽で発現し、これらの分子の発現はLYによって抑制されることがわかった。しかしながら、再生芽が完全に形成され、しかも血管再生もかなり進行した時期にLYを作用させても、血管再生に対する阻害効果はみられなかった。これらの結果から、LYによる血管再生の阻害は、再生芽形成を介して起こることが明らかになった。 またヒレ切断後には、切断面下方に増殖能の高い細胞群が現れ、それらの細胞が切断面(先端)付近に移動してくることで再生芽が形成されることが知られている。LY処理したヒレでは再生芽形成が抑制されることから、これら増殖能の活発な細胞が生じてこないことが予想された。そこで再生ヒレで増殖能の高い細胞を検出するため、増殖中の細胞DNAにピリミジンアナログであるBrdUを取り込ませ、LY処理によりBrdU陽性細胞の数に変化がないかを調べてみた。その結果、LY処理したヒレではBrdU陽性細胞の数に異常はみられなかったが、それら増殖能の高い細胞のヒレ先端への移動が明らかにおかしくなっていることがわかった。以上のことから、PI3Kはヒレ再生時に再生芽を形成する細胞群の移動に関与していることを明らかにすることができた。
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