マボヤは雌雄同体の動物であり精子と卵の放出は同時に起こるが自家受精しない。マボヤ卵の卵黄膜に存在する精子受容タンパク質HrVC70は12回の上皮成長因子(EGF)様繰り返し配列からなり、自己の精子よりも非自己の精子に対してより高い親和性を示すことから、自己非自己識別分子の有力候補であると考えられてきた。HrVC70と相互作用する精子側のパートナー分子として、CRISPファミリーに相同性を示すGPI結合型膜タンパク質であるHrUrabinが同定されている。昨年度、我々はHrUrabinとHrVC70との間の分子間相互作用は自己・非自己の組合せの間で顕著な差が見られず、両方の組合せで結合することを示した。この結果は、前述のHrVC70が非自己の精子に対して強く結合するという観察と矛盾する。 今年度、我々は別の種のホヤであるカタユウレイボヤにおいて卵黄膜側と精子側の自己非自己分子を明らかにすることに成功した。卵黄膜側の分子はフィブリノーゲン様のリガンドタンパク質で、それをアレル特異的に認識するのが精子側のポリシスチン様の受容体タンパク質であると考えられ、それぞれv-テミス、s-テミスと名付けられた。これらは染色体上で緊密に連鎖して存在しており、アレル間で著しい配列の変異を示した。 この成果を踏まえつつ、マボヤのHrVC70とHrUrabinとの分子間相互作用については、今年度は以下に挙げる成果を得た。 1 この分子間相互作用には、HrVC70が非変性的状態で立体構造が保たれている必要があるらしい。 2 一方HrUrabinは変性条件下でも結合可能だが、N型糖鎖が必須である。 3 HrUrabinは多型的な分子ではない。 4 HrVC70の多型について詳細な分子進化学的解析を行ったところ、自己非自己識別分子が示すような特徴を持たないらしいことが分かった。
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